HERE COMES THE SUN

太平洋の南の島マーシャル諸島からの日記です

マーシャルで仮想通貨導入!?

先月のマーシャルの国会で、マーシャル政府公認の通貨として仮想通貨ソブリン(SOV)を導入することが決まった。マーシャルの通貨はUSドル。これと並行して仮想通貨SOVも通貨として流通させるらしい。IT技術やテクノロジーが進んでいるとは言えない国で、なぜこんな話が出たのか。

話はイスラエルにあるベンチャー企業Neemaに始まる。マーシャルはイスラエルと国交を結んでいるので、イスラエルから援助を受けたこともある友好国。そのイスラエルベンチャー企業から、マーシャルで国の通貨として仮想通貨を運営する話がきたらしい。まず、マーシャルという国はお金がない。これといった産業も資源もなく、ほぼ輸入品に頼っている生活で、貿易収支は長年大幅赤字。各国からの援助によって国家予算が成り立っている。特にアメリカからの援助は、自由連合盟約に基づき多額で、政府歳入の約6割を占めている。ところが現在の協定の期限である2023年には、アメリカは援助を半分に減らすと言っている。他国からの援助に頼るだけでなく、自分たちでお金を作っていかないといけない時代が早急に迫っている、と考えた若手国会議員たちが中心となって、仮想通貨の話が進んだようだ。国会でも酋長系の古株おじいさん議員たちには、わけのわからない話だった様子。

つまるところ仮想通貨導入の話は、魅力的な儲け話、資金調達になるということ。SOVを発行したら、イスラエルベンチャー企業とマーシャルで600万ドルずつ半々にその通貨を保有したとする。それを世界に向けて売り出せば、600万ドル(約6.5億円)が60億ドル(約6530億円)に化ける試算なのだ。国で仮想通貨をどう使う予定かというと、全体の20%は全国民に一定額を配布、20%を水爆実験の被害者のための医療費にし、10%を気候変動による環境問題のために使い、残り50%は国の信託基金に預けて管理するという計画。将来的にはドルと同様にマーシャルの公式通貨として、税金や買い物にも使えるようにしたいとのこと。また、マネーローダリング等で悪用されないために「Yakweフレームワーク」と呼ばれるシステムで、匿名性の問題を解決し、本人確認がないと使うことができない暗号通貨にするらしい。

でも大丈夫なの?本当にマーシャルでやれるの?と不安に思う人は実際に多い。例えば、仮想通貨を作り出すには、たくさんのコンピューターを動かす必要があり、その冷却装置も必要で、かなりの電力を必要とする。それこそ、あの有名なビットコインを運営するために使われている電力の1年分は、マーシャルが国全体で1年間に消費する電力量よりはるかに多いはず。気候変動問題のための予算を作るために環境に悪いことをする、という矛盾。定期的に計画停電があったり、突然の停電もよくあるような電力不安定な国でそれができるのか?インターネット回線の普及もスピードも安定性も、先進国に比べたら遅れているので、我が家のインターネット回線も平均して1か月に1回は切断されて2,3日使えないなんてことは普通。国際通貨基金からは「国として仮想通貨を導入するメリットだけでなくデメリットもしっかりと認識してください」と通達を受け取った。

仮想通貨はリスクのあるものだし、デジタル環境どころか安定した電力すら整っていないことに目をつぶって、儲け話だからって国として導入してしまうのはどうなのだろう。他にも国としてやるべきことは山積みなのに。ある意味、最初からお金がないとても小さな国で、自国の通貨を持たないからこそ、取るリスクも少なくて、わりと簡単に導入できるという話。この先どうなるのか。本当に導入されるのか、成り行きを見守っていこうと思う。

↓地元紙でもその後の動きは大きく報じられている。